Seed to Table~ひと・しぜん・くらしつながる~

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Archive for 2009年 8月 26日

Xoi che屋のハンさん

久しぶりに朝の散歩に出かけることにしました。私は以前からハノイの旧市街に部屋を借りており、徒歩2分くらいでハノイのシンボルともなっているホアンキエム湖に出ます。早朝は車やバイクも少なく、歩くには最適です。ホアンキエム湖の周りにはバトミントンや太極拳をしている方が大勢います。中にはカセットデッキから流れてくる軽快なテンポにのって、エアロビクス(もどき)をしている女性グループもあります。 

ハノイの旧市街には、古くから家内工業を営む人や商いをしている人が住んでいます。他の省から移り住んできた人々が作っている新しい地域とは異なり、旧市街では通りに住んでいる人のほとんどが、何代にもわたって近所付き合いをしています。たまに「旧市街は治安が悪いのではないですか?」と聞かれることがありますが、新興住宅地と比べてみると、旧市街にある家にはベランダに鉄格子などが設置されていません。それだけ、よその人が入って来にくい場所なのです。

さて、この旧市街には美味しい屋台料理がたくさんあります。今日、久しぶりにXoi che(ソイ・チェー)を食べに行きました。これは、おこわにキャッサバの粉と砂糖を混ぜて作った、甘みのあるあんをかけて食べるものです。とろっとしたあんに、うすーく甘みがついていて、もちっとしたおこわとマッチして美味しいです。1杯5,000ドン(約30円)。他にも女性が好んで食べる、蓬の卵とじもあります。こちらも同じく1人前5,000ドン。

この屋台を切り盛りしているのが、ハンさん(54歳)。偶然、散歩帰りに入ってから、ハンさんと話が弾み、通うようになってから6年くらい経ちます。ハンさんはタイ湖近くで生まれ育ち、今は旦那さんと2人の男の子と旧市街に住んでいます。バオカップ(配給)時代は様々な物資を配給するところで働いていました。今は子育てをしながら、Xoi che屋を営んでいます。ハンさんは語ります。

「昔はモノがなくて大変だったけど、暮らしはそれなりに平安で、みんな、よく助け合っていたわ。でも、今ときたら、モノはたくさん溢れているけど、皆、お金、お金って、お金に振り回されている。私の家族も財産分与などで揉めているわ。昔は皆、仲が良かったのに・・・。ああ、この前の家ね、テーラーを営んでいたけど、壊してホテルにするんだって。でも、誰が借りるのかしら。この通りにもたくさんのホテルがあるけど、どこも閑古鳥が鳴いてるって。従業員の子たちが、ここに食べに来て話しているわ。将来、どうなるやら、本当に不安よ。特にうちの子供たちが大きくなったら、どうなるのかしら・・・毎日、一生懸命働いておかず代を稼がないと。うちの旦那は職がないからね。夕方はホアンキエム湖を散歩して健康に気をつけてるの。そして、家族の健康のために工夫してご飯つくってるわ。毎日、大変だけど、楽しく暮らす努力をしないとね。」

Xoi cheを売るハンさん

Xoi cheを売るハンさん

肝っ玉母さんのハンさん。いろいろと大変なこともあるのですが、いつも明るく、皆に声をかけます。早朝にハノイ近郊から出てきて、天秤棒を担いで野菜や果物を売ったり、パンやビニール袋やサンダルを売っている女性たちがXoi cheなどを食べに来ます。するとハンさんは「これ、疲れがとれるお茶だから、飲んで」といって彼女達をもてなします。お年寄りにもさりげなく「最近、元気?」と声をかけます。お客の9割は馴染みの人達ばかりです。皆、思い思いのことを話して、帰って行きます。地元の女性たちの、一つの貴重なサロンです。

でも、ちょっと気になることがありました。それは、品数がぐーんと減っていることです。以前はおこわも2-3種類、小豆のジュースや豆乳、パンもありました。でも、今はXoi cheと蓬の卵とじだけです。ハンさんに聞くと、以前ほど売れなくなった、と言います。

「経済危機だからね。商売が成り立たない。前みたいに簡単に収入を得られなくなっているのよ。それで、皆、買い控えしてる。例えば箱でインスタントラーメンを買って、毎日食べている人もいるのよ。私もいつまでこの商売を続けられるか・・・。」

いろんな理由で就職できなかったり、大きな資本がない人にとって、身の回りにあるもので手早く簡単に安くできる屋台は、貴重な収入源となります。そして、農村から出てきて天秤棒一つで稼ぐ女性たちにとっても、こうした屋台は栄養補給所であり、情報交換の場なのです。国の仕組みとしての社会保障制度を充実させることも重要である一方、セーフテイーネットとしての役割を果たしている屋台文化を守っていくことも必要であると思います。

ともあれ、ハンさん、頑張ってください!また食べに行きます。