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やっぱり庶民の味方はMade in China

「まゆ、このストール、いくらしたと思う?」と、おもむろに大家のお母さんが私に聞いてきた。その手には黒地に赤糸で素敵なバラが刺繍されているストールがあった。お母さんはさも満足げに、「きれいでしょう?この間、市場で見つけたのよ。中国製なんだけど、とっても安かったのよ。生地もいいし、暖かいわ」と続けた。私は中国製と聞いて「200,000ドン(約1,000円)くらい?」と聞いてみたところ、お母さんは「惜しい!150,000ドン(約750円)だったのよ」と教えてくれた。

その後も出てくる、出てくる。朝の散歩に重宝するトレーニングパンツやシャツなど、Made in Chinaの衣服が次々と紹介された。お母さんが満足しているポイントは安くて、丈夫で、デザインも豊富で素敵である、ということ。ベトナムでも縫製業が盛んであるが、どうしても中国製には勝てない。その理由は、価格、デザイン、そして、品質である。

ある日、パソコンの調子が悪くなったので、パソコン関係の仕事をしているH君にお願いしてみてもらうことにした。彼は私のパソコンをいじくりながら、最新のパソコン・ソフトや携帯電話などについて、いろいろと教えてくれた。世界中でヒットしているI Podは、ベトナムでも老若男女を問わず大人気であるが、価格が25,000~30,000円とちょっと高いため、若者にとっては、おいそれと購入できる物ではない。そういう人々を満足させているのが、中国製の携帯端末である。価格は6,000~7,000円くらいで機能も充実しているようだ。H君もその携帯端末を利用しており、とっても便利で性能が良い、と教えてくれた。

また、10年ほど前になるが、私がちょうど中国国境のカオバン省というところでフィールドワークをしていた頃、現金収入が限られている農家や都市の貧困層に一気にバイクが普及した時期があった。何を隠そう、中国製のバイクが市場に登場したからである。当時、タイで組み立てられたホンダのドリームなどは、2,000ドルくらいした。ベトナムで組み立てられたホンダのドリームになると、1,700ドルくらいに下がったように記憶している。ところが、中国製のバイクになると、300ドルくらいで購入できた。これだと、農家や都市の貧困層も頑張れば、手に届く価格なのである。その頃、ホンダのバイクと見せかけたHONGDAなんていう偽物バイクも出回り、大きな問題になっていたが、そのうち、みるみる品質が改善されていった。

世界中、恐らく、どんな僻地に行っても、Made in Chinaの製品が流通しているのではないか。そう思わせるほど、巷には中国製品があふれている。先日、アメリカ人のジャーナリスト、アレクサンドラ・ハーニーの“The China Price(日本語は『中国貧困絶望工場「世界の工場」のカラクリ』)”という本を購入した。主に広東省の工場地帯を取材し、なぜ、中国製品は安いのか、というシンプルな疑問を解き明かそうとした話題作である。まだ全部を読み終えていないものの、安価な中国製品は、工場で働いている多くの労働者、その家族、そして彼らの出身地である農村の犠牲の上に成り立っているようだった。

しかし、そうした農村から出てきた労働者の犠牲によって生産された安価な製品は、国境を越えて、他国の人々を満足させたり、助けている。私たちは品物を購入するときに、この品物がどんなところで、どんな人によって作られ、どのように運ばれたのか、などと考えないことが多い。だから、一枚のストール、一台のバイク、そして携帯端末の陰にある悲惨な労働環境など、想像もできない。

中国とASEAN諸国の自由貿易協定が今年の1月1日に発効した。ベトナムは2015年までに中国製品の90%以上にゼロ関税を実施する予定だ。昨年から、「ベトナム製品を買おう」というスローガンのもと、国産品の販売促進キャンペーンが行われている。しかし、依然として中国製品の人気は衰えていないように見える。

ベトナムでは、大家のお母さんやH君のように、多くの庶民が中国製品を喜んで購入し、利用している。一方、中国では農村から出稼ぎに来ている工場労働者が日々、苦しい思いをしている。グローバル化とはこういうことだ、と言ってしまえばそれまでだが、実態を知るにつけ、誰にとって何が良いグローバル化なのか、考えざるを得ない。当面、ベトナムの庶民は中国製品の恩恵をたくさん受けられそうだが・・・。