8月末にドンタップ省でアヒル水稲同時作を実践していたトゥックさんの携帯に電話をした。トゥックさんが電話を取らなかったので、どこかに出かけているのかと思っていました。数日後、トゥックさんの娘さん、ガンちゃんが電話をくれました。「私の父が亡くなりました。もうすぐ49日です」と・・・。

トゥックさんは3年前に胃がんを患いましたが、ご家族が手厚く看病したお陰でご快復されていました。私が初めてトゥックさんにお会いした2007年5月には「日本の合鴨水稲会の皆さんにお会いしたい。萬田先生や古野さんは元気ですか」と繰り返し、おっしゃっていました。

トゥックさんは1996年にドンタップ省で初めてアヒル水稲同時作に取り組んだ農民です。常に勤勉で、新しい方法にトライする意欲を持ち、何をやってもきっちりこなす、素晴らしい農家でした。ドンタップ省で一番、素晴らしい農家として表彰されたこともあります。

今年3月にハノイで実施された会議に出席し、元気に発表をしていました。日本合鴨水稲会の古野さんご夫妻とも再会し、とても喜んでいらっしゃいました。私が6月に南部に出かけたときにも連絡をくださり、「是非、ドンタップ省にも遊びにきてね」と言ってくださいました。その時、予定を変更してでも会いにゆくべきだった、と後悔しました。

ご家族とお会いし、いろいろとお話しました。死因は肝臓がんでした。今年の4月に腹部に痛みを覚え、検査したところ、もう手遅れだったそうです。自宅の改装や末っ子の結婚式など、家の仕事を全て終えてから倒れたことを知りました。その時まで決して、腹部が痛いと漏らさなかったそうです。最後まで責任感あふれる、家族の大黒柱でした。

しかし、悲しみの中、希望もありました。家業を継いだ息子さんのタムさんが「来年からまたアヒル水稲同時作をやるよ」と話してくれました。また、おじいちゃん子だった、10歳のウイェンちゃんは、「将来はお医者さんになりたい」と話していました。

トゥックさんは亡くなりましたが、家族の皆さんはトゥックさんへの思いを胸に、今日も家族の和を大事にしながら暮らしています。ご冥福をお祈りします。

会議で発表するトゥックさん